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子路第十三 25 子曰君子易事而難説也章

327(13-25)
子曰、君子易事而難説也。説之不以道、不説也。及其使人也、器之。小人難事而易説也。説之雖不以道、説也。及其使人也、求備焉。
いわく、くんつかやすくしてよろこばしめがたし。これよろこばしむるにみちもってせざれば、よろこばざるなり。ひと使つかうにおよびては、これにす。しょうじんつかがたくしてよろこばしめやすし。これよろこばしむるにみちもってせずといえども、よろこぶなり。ひと使つかうにおよびてや、そなわらんことをもとむ。
現代語訳
  • 先生 ――「できた人にはつかえやすいが、よろこばれにくいものだ。よろこばすだけの理由がないと、よろこばないものだ。そして人を使うにも、向き向きにする。できてない人にはつかえにくいが、よろこばせやすいものだ。よろこばすだけの理由がなくても、よろこぶものだ。そして人を使うときは、なんでもやらせる。」(がえり善雄『論語新訳』)
  • 孔子様がおっしゃるよう、「君子は公平で思いやりがあるから、その部下としてつかえるのはやさしいが、ごきげんはとりにくい。喜ばせようと思っても正しい道をもってしなければ喜ばないからである。しかし人を使うには、各人がその才能に応じて働かせて、無理な注文をしないから、つとめよいのである。これに反して小人は、私心があってこくだから、下の者がつとめにくいが、ごきげんはとりよい。すなわちへつらいとか、まいないとか道ならぬことをしてもよろこぶから、よろこばせよいが、人を使うのに一人の身にすべてのことが備わることを求めて責めつかうから、はなはつかえにくいのである。」(穂積重遠しげとお『新訳論語』)
  • 先師がいわれた。――
    「君子は仕えやすいが、きげんはとりにくい。きげんをとろうとしても、こちらが道にかなっていないといい顔はしない。しかし人を使う時には、それぞれの器量に応じて使ってくれ、無理な要求をしないから仕えやすい。小人は、これに反して、仕えにくいがきげんはとりやすい。こちらが道にかなわなくても、きげんをとろうと思えばわけなくできる。しかし人を使う時には、すべてに完全を求めて無理な要求をするから仕えにくい」(下村湖人『現代訳論語』)
語釈
  • 君子 … 徳の高い立派な人。人格者。反対は小人。
  • 事 … 仕える。
  • 君子易事 … 君子には仕えやすい。
  • 説 … 「よろこぶ」と読む。「悦」に同じ。ここでは、ご機嫌をとるの意。
  • 不以道 … 道理をもってしなければ。道徳にかなっていなければ。具体的には、へつらいや賄賂を贈ったりすることを指す。
  • 器之 … その人物の長所を生かして働かせる(だから、君子には仕えやすい)。
  • 小人 … 教養がなく、人格が低くてつまらない人。反対は君子。
  • 小人難事 … 小人には仕えにくい。
  • 求備 … 完全であることを要求する。何でもできることを求める(だから、小人には仕えにくい)。
補説
  • 『注疏』に「此の章は君子・小人の同じからざるの事を論ずるなり」(此章論君子小人不同之事也)とある。『論語注疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 君子易事而難説也 … 『集解』に引く孔安国の注に「備わるを一人にもとめず、故に事え易きなり」(不責備於一人、故易事也)とある。『論語集解』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『義疏』に「君子は忠恕なり。故に事え易きなり。物の理を照見し、欺詐きさす可からず。故に悦ばしめ難きなり」(君子忠恕。故易事也。照見物理、不可欺詐。故難悦也)とある。『論語義疏』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また『注疏』に「言うこころは君子は備わるを一人にもとめず、故に事え易く、妄りに説ばすを受けず、故に説ばしめ難きなり」(言君子不責備於一人、故易事、不受妄説、故難説也)とある。
  • 説之不以道、不説也。及其使人也、器之 … 『集解』に引く孔安国の注に「才をはかりて官に任ずるなり」(度才而任官也)とある。また『義疏』に「此れ悦ばしめ難きをくなり。君子既に理の深きを照識す。若し人道理に非ざるの事を以て来たり求め、之をして悦ばしめ、己則ち之を識る。故に悦ばざるなり。此れ事え易きを釈くなり。器は、猶お能のごときなり。君子は既に備わるを一人にもとめず。故に人の能に随いて之を用う。過分に人を責めず。故に事え易し」(此釋難悦也。君子既照識理深。若人以非道理之事來求、使之悦、己則識之。故不悦也。此釋易事也。器、猶能也。君子既不責備於一人。故隨人之能而用之。不過分責人。故易事)とある。また『注疏』に「此れ説ばしめ難く事え易きの理を覆明す。言うこころは君子に正徳有りて、若し人己を説ばしむるに道を以てせずして妄りに説ばしめば、則ち喜説せざるなり。ここを以て説ばしめ難し。人の才器をはかりて之を官にし、備わるをもとめず、故に事え易し」(此覆明難説易事之理。言君子有正德、若人説己不以道而妄説、則不喜説也。是以難説。度人才器而官之、不責備、故易事)とある。また『集注』に「之を器にすは、其の材器に随いて之を使うを謂うなり」(器之、謂隨其材器而使之也)とある。『論語集注』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 小人難事而易説也 … 『義疏』に「小人は道理を識らず。故に事え難きなり。法に非ざるを以て之を欺く可きなり」(小人不識道理。故難事也。可以非法欺之也)とある。また『注疏』に「小人は君子に反するが故なり」(小人反君子故也)とある。
  • 説之雖不以道、説也 … 『義疏』に「此れ悦び易きを釈くなり。既に道理を識らず。故に道を以てせざるの事と雖も之を悦ぶ。亦た既に之を悦ぶ」(此釋易悦也。既不識道理。故雖不以道之事悦之。亦既悦之)とある。また『注疏』に「此れ説ばしめ易く事え難きの理を覆明す。小人は人の説ぶが為に媚び、道を以てせずして妄りに之を説ばしむと雖も、亦た喜説するを以て、故に説ばしめ易きなり」(此覆明易説難事之理。以小人爲人説媚、雖不以道而妄説之、亦喜説、故易説也)とある。
  • 及其使人也、求備焉 … 『義疏』に「此れ事え難きを解するなり。他人の器量を測度せずして、過分に人をもとむ。故に事え難きなり」(此解難事也。不測度他人器量、而過分責人。故難事也)とある。また『注疏』に「其の人を使うに及びては、備わらんことを一人にもとむ、故に事え難きなり」(及其使人也、責備於一人焉、故難事也)とある。また『集注』に「君子の心は、公にして恕。小人の心は、私にして刻。天理人欲の間は、つねあい反するのみ」(君子之心、公而恕。小人之心、私而刻。天理人欲之間、毎相反而已矣)とある。
  • 伊藤仁斎『論語古義』に「輔氏広曰く、君子は己を持するの道甚だ厳にして、人を待するの心甚だ恕なり。小人は己を治むるの方甚だ寛にして、人を責むるの意甚だ刻なり。君子は人の理に順うを説び、小人は人の己に順うを説ぶ。君子は人材を貴重し、才器に随いて之を使う、而して天下用う可からざるの人無し。小人は人材を軽視す、故に全きを求めて備わらんことを責む、而して卒に用う可きの人無きに至る」(輔氏廣曰、君子持己之道甚嚴、而待人之心甚恕。小人治己之方甚寛、而責人之意甚刻。君子説人之順理、小人説人之順己。君子貴重人材、隨才器而使之、而天下無不可用之人。小人輕視人材、故求全責備、而卒至無可用之人)とある。『論語古義』(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。
  • 荻生徂徠『論語徴』には、この章の注なし。
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