過零丁洋(文天祥)
過零丁洋
零丁洋を過ぐ
零丁洋を過ぐ
- 〔テキスト〕 『文山先生文集』巻十四(『四部叢刊 初編集部』所収)、他
- 七言律詩。經・星・萍・丁・靑(下平声青韻)。
- ウィキソース「過零丁洋」参照。
- 零丁洋 … 広東省の珠江の河口付近の海の名。「零丁」は、落ちぶれて孤独であること。この詩では、この言葉を借りて窮苦の心情を述べている。
- 過 … 通過する。
- 文天祥 … 1136~1282。南宋末の忠臣。吉州廬陵(江西省吉安市)の人。字は宋瑞、または履善、号は文山。宝祐四年(1256)、状元(首席)で進士に及第。元軍と戦い、捕らえられたて大都(北京)に送られ、三年の獄中生活ののち処刑された。獄中で作った『正気の歌』は有名。ウィキペディア【文天祥】参照。
辛苦遭逢起一經
辛苦 遭逢 一経より起る
- 辛苦 … 辛いことに遭って苦しむこと。
- 遭逢 … 遭遇する。出くわすこと。
- 起一経 … 経書を修めて、二十歳で進士に及第し、仕官したこと。「一経」とは、五経のうち一経を専攻したという意。
干戈落落四周星
干戈 落落たり 四周星
山河破碎風抛絮
山河 破砕して 風は絮を抛ち
- 破砕 … 破壊された。
- 絮 … 柳絮。柳の白い綿毛のついた種子。
- 抛 … 吹き散らす。「飄」に作るテキストもある。
身世飄搖雨打萍
身世 飄揺 雨は萍を打つ
- 身世 … わが身一代。一生涯。
- 飄揺 … さすらう。漂い動く。「浮沈」に作るテキストもある。
- 萍 … 浮き草。
- 雨打萍 … 浮き草を雨が打ち叩く。不安なことの喩え。
皇恐灘頭説皇恐
皇恐灘頭 皇恐を説き
- 皇恐灘 … 江西省贛江にある早瀬の名。贛江十八灘の一つ。「灘」は流れの急な難所。
- 頭 … ほとり。「辺」に作るテキストもある。
- 皇恐 … 恐れいる。恐れおののく。「惶恐」に作るテキストもある。
零丁洋裏歎零丁
零丁洋裏 零丁を歎ず
- 零丁洋裏 … 零丁洋の中で。
- 零丁 … 落ちぶれて孤独であること。
- 歎 … 嘆く。
人生自古誰無死
人生 古より 誰か死無からん
- 自古 … 昔から。「自」は「より」と読み、「~から」と訳す。返読文字。時間・場所などの起点を示す。
- 誰無死 … 誰一人死なない者はない。
留取丹心照汗靑
丹心を留取して汗青を照らさん
- 丹心 … (国家や主君に尽くす)真心。忠誠の真心。赤心。誠心。
- 留取 … 留めておく。留め残して後世に伝える。「取」は助字。
- 汗青 … 歴史書を指す。昔、竹簡を火にあぶって水分(汗)を抜き、青みを除いて文字を書きやすくしたという。
- 照 … 史上に名を輝かせたい。
歴代詩選 | |
古代 | 前漢 |
後漢 | 魏 |
晋 | 南北朝 |
初唐 | 盛唐 |
中唐 | 晩唐 |
北宋 | 南宋 |
金 | 元 |
明 | 清 |
唐詩選 | |
巻一 五言古詩 | 巻二 七言古詩 |
巻三 五言律詩 | 巻四 五言排律 |
巻五 七言律詩 | 巻六 五言絶句 |
巻七 七言絶句 |
詩人別 | ||
あ行 | か行 | さ行 |
た行 | は行 | ま行 |
や行 | ら行 |