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送別(王維)

送別
送別そうべつ
おう
  • 五言古詩。之・陲・時(上平声支韻)。
  • ウィキソース「送別 (下馬飲君酒)」参照。
  • 送別 … 旅立つ友人を送る。友人の名はわからない。服部南郭『唐詩選国字解』には「此れは、世のいとなみ榮をやめて、ゆく隱者を、送る詩ぢや」とある。『漢籍国字解全書』第10巻(国立国会図書館デジタルコレクション)参照。また、この詩全体が架空の対話であるとし、作者の心境を詠じたものとする説もある。
  • 王維 … 699?~761。盛唐の詩人、画家。太原(山西省)の人。あざなきつ。開元七年(719)、進士に及第。安禄山の乱で捕らえられたが事なきを得、乱後は粛宗に用いられてしょうじょゆうじょう(書記官長)まで進んだので、王右丞とも呼ばれる。また、仏教に帰依したため、詩仏と称される。『王右丞文集』十巻がある。ウィキペディア【王維】参照。
下馬飮君酒
うまよりりてきみさけましむ
  • 下馬 … 馬から下りて。古楽府「古詩、しょうちゅうけいが妻の為の作」(『楽府詩集』巻七十三、『玉台新詠』巻一)に「馬をくだって車中に入り、こうべれて共に耳語じごす」(下馬入車中、低頭共耳語)とある。耳語は、耳に口を寄せて小声で話すこと。ウィキソース「古詩為焦仲卿妻作」参照。
  • 飲君酒 … 君にはなむけの酒をすすめる。
問君何所之
きみう いずくにかところぞと
  • 何所之 … 「なんく所ぞ」と読んでもよい。これからどこへ行くのか。之は、目標の地点へ行くこと。また、「なぜ行くのか」と解釈することもできる。古楽府「雞鳴」(『楽府詩集』巻二十八)に「蕩子はいずれの所にかく、天下はまさに太平なり」(蕩子何所之、天下方太平)とある。ウィキソース「樂府詩集/028卷」参照。
君言不得意
きみう 
  • 不得意 … 世間のことが自分の思うようにならない。『史記』けい伝に「せい已に死し、意を得ず、乃ち書を著す」(魏齊已死、不得意、乃著書)とある。魏斉は、魏の宰相。ウィキソース「史記/卷076」参照。
歸臥南山陲
南山なんざんほとり帰臥きがせんと
  • 南山 … 終南山。秦嶺山脈中部一帯を指す。別名中南山、太乙山ともいう。現在の陝西省西安市の南にある。ウィキペディア【終南山】参照。『詩経』小雅・かんの詩に「秩秩ちつちつたる斯干、幽幽たる南山」(秩秩斯干、幽幽南山)とある。斯干は、谷の水。秩秩は、川の水が調子よく流れるさま。ウィキソース「詩經/斯干」参照。
  • 陲 … ほとり。周囲。片隅。
  • 帰臥 … 故郷に帰って隠居すること。『漢書』張敞ちょうしょう伝に「便ち家に帰臥し、臣を五日の京兆と謂い、恩に背き義を忘れ、化をそこない俗を薄くす」(便歸臥家、謂臣五日京兆、背恩忘義、傷化薄俗)とある。ウィキソース「漢書/卷076」参照。
但去莫復問
れ うことけん
  • 但 … 「ただ」と読む。限定して下の字を強調する語。
  • 去 … 行きたまえ。『唐詩別裁集』では「厺」に作る。異体字。
  • 復 … 再び。もう一度。
  • 問 … 『静嘉堂本』『四部叢刊本』では「聞」に作る。
  • 莫復問 … これ以上君に何も聞くまい。
白雲無盡時
白雲はくうんくるとき
  • 白雲無尽時 … 君が行く南山では、白い雲が沸き起こって尽きる時はないだろうから。白雲は、山中の生活を象徴するもの。南朝梁の陶弘景「山中何の有る所ぞと詔問せられ詩を賦して以て答う」詩(『古詩紀』巻九十九)に「山中何の有る所ぞ、嶺上に白雲多し。只だ自らえつす可きのみ、持して君に寄するに堪えず」(山中何所有、嶺上多白雲。只可自怡悦、不堪持寄君)とあるのに基づく。ウィキソース「答詔問」参照。また『詩経』小雅・白華の詩に「英英たる白雲、彼の菅茅かんぼうつゆす」(英英白雲、露彼菅茅)とある。英英は、雲が美しく盛んなさま。菅茅は、かやちがや。ウィキソース「詩經/白華」参照。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻一(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻一百二十五(中華書局、1960年)
  • 『王右丞文集』巻五(静嘉堂文庫蔵、略称:静嘉堂本)
  • 『王摩詰文集』巻九(書韻楼叢刊、上海古籍出版社、2003年、略称:蜀刊本)
  • 『須渓先生校本唐王右丞集』巻五(『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:四部叢刊本)
  • 顧起経注『類箋唐王右丞詩集』巻二(台湾学生書局、1970年、略称:顧起経注本)
  • 顧可久注『唐王右丞詩集』巻五(『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:顧可久注本)
  • 趙殿成注『王右丞集箋注』巻三(中国古典文学叢書、上海古籍出版社、1998年、略称:趙注本)
  • 『唐詩三百首注疏』巻一(廣文書局、1980年)
  • 『唐詩品彙』巻九([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩解』巻七(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩別裁集』巻一(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『古今詩刪』巻十(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇8』所収)
  • 松浦友久編『校注 唐詩解釈辞典』大修館書店、1987年
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