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答張五弟(王維)

答張五弟
ちょうていこた
おう
  • 雑言古詩。山・關・閒・還(上平声刪韻)。
  • ウィキソース「荅張五弟」参照。
  • 詩題 … 『静嘉堂本』『蜀刊本』『四部叢刊本』『顧可久注本』では、題下に「雑言」とある。『顧起経注本』には、題下に「劉校本には注して云う、雑言と」(劉校本注云雜言)とある。劉校本とは、南宋末の劉辰翁(号須渓)による校訂本『須渓先生校本唐王右丞集』のこと(『四部叢刊本』はその一種)。
  • 張五弟 … 張は、姓。五は、排行。弟は、年下の友人を呼ぶときの言葉。王維の親しい友人、張いんのこと。生没年不詳。温州永嘉(現在の浙江省温州市永嘉県)の人。若い頃、嵩山の最高峰である太室山に十数年隠棲したが、後に刑部員外郎にまで至った。ウィキペディア【張諲】(中文)参照。
  • 答 … 『静嘉堂本』『四部叢刊本』『古今詩刪』では「荅」に作る。同義。『唐詩別裁集』では「畣」に作る。異体字。
  • 王維 … 699?~761。盛唐の詩人、画家。太原(山西省)の人。あざなきつ。開元七年(719)、進士に及第。安禄山の乱で捕らえられたが事なきを得、乱後は粛宗に用いられてしょうじょゆうじょう(書記官長)まで進んだので、王右丞とも呼ばれる。また、仏教に帰依したため、詩仏と称される。『王右丞文集』十巻がある。ウィキペディア【王維】参照。
終南有茅屋
しゅうなん茅屋ぼうおく
  • 終南 … 終南山。長安の南方にある山。今の陝西省南部、秦嶺山脈の中部あたりを指す。別名南山、中南山、太乙山などともいう。ウィキペディア【終南山】参照。『括地志』雍州、万年県の条に「終南山は、一名中南山、一名太一山、一名南山、一名橘山、一名楚山、一名泰山、一名周南山、一名地脯山、雍州万年県の南五十里に在り」(終南山、一名中南山、一名太一山、一名南山、一名橘山、一名楚山、一名泰山、一名周南山、一名地脯山、在雍州萬年縣南五十里)とある。ウィキソース「括地志輯校」参照。また『詩経』秦風・終南の詩に「終南に何か有る、じょう有りばい有り」(終南何有、有條有梅)とある。条は、ユズの木。梅は、ユズリハの木。ウィキソース「詩經/終南」参照。また『書経』禹貢篇に「けいは既にりょし、終南・惇物とんぶつより、ちょうに至る」(荊岐既旅、終南惇物、至于鳥鼠)とある。ウィキソース「尚書/禹貢」参照。
  • 茅屋 … かやぶきの家。また、自分の家を謙遜していう言葉。『春秋左氏伝』桓公二年に「ここを以てせいびょうは茅屋、たい越席かっせき大羹たいこうは致さず、粢食ししさくせざるは、其のけんを昭らかにするなり」(是以清廟茅屋、大路越席、大羹不致、粢食不鑿、昭其儉也)とある。清廟は、周の文王・武王を祭る廟。大路は、天を祭るときに天子の乗る車。越席は、がまを編んで作ったむしろ。活席に当てた用法。大羹は、調味料を用いない肉汁。粢食は、祭りに供えるしょしょく(もちきびと、うるちきび)という穀物。鑿は、精白すること。倹は、倹約。ウィキソース「春秋左氏傳/桓公」参照。
  • 茅 … 『唐詩別裁集』では「茆」に作る。同義。
前對終南山
まえしゅうなんざんたい
  • 前 … 正面。
  • 対 … 向かい合っている。
終年無客長閉關
しゅうねんかくくしてながかんざし
  • 終年 … 一年中。「秋歌十八首其十八」(子夜四時歌七十五首)に「いずくにかとうりゅうの水を見ん、終年西せいせず」(惡見東流水、終年不西顧)とある。西顧は、西方を顧みること。ウィキソース「樂府詩集/044卷」参照。
  • 長 … 『全唐詩』では「常」に作る。
  • 關 … 『静嘉堂本』では「開」に作る。
  • 閉関 … 門にかんぬきをかけたまま。『易経』復卦に「先王以てじつに関を閉じ、しょうりょかしめず、きみほうず」(先王以至日閉關、商旅不行、后不省方)とある。至日は、ここでは冬至の日。商旅は、商人と旅人。后は、人君。方は、四方。省は、じゅんせい。ウィキソース「周易/復」参照。また東晋の陶淵明「帰去来の辞」に「園は日〻ひびわたりて以ておもむきを成し、門はもうくと雖も常にとざせり」(園日涉以成趣、門雖設而常關)とある。ウィキソース「歸去來辭並序」参照。また南朝梁の江淹「建平王にいたりて上書す」(『文選』巻三十九)に「子陵は関を東越とうえつに閉じ、ちゅううつは門を西秦にづ」(子陵閉關於東越、仲蔚杜門於西秦)とある。ウィキソース「獄中上建平王書」参照。
終日無心長自閒
しゅうじつこころくしてながおのずからかんなり
  • 終日 … 一日中。『詩経』小雅・大東の詩に「たるしょくじょ、終日しちじょうす」(跂彼織女、終日七襄)とある。跂は、傾くさま。織女三星が三角の形で並ぶさま。七襄は、七たび位置を移す。ウィキソース「詩經/大東」参照。
  • 無心 … 心を煩わすことが何もないこと。東晋の陶淵明「帰去来の辞」に「雲は無心にして以てしゅうを出で、鳥は飛ぶにみて還るを知る」(雲無心以出岫、鳥倦飛而知還)とある。岫は、山の岩穴。転じて、深い山あい。峰。ウィキソース「歸去來辭並序」参照。
  • 間 … 長閑のどか。ひま。『蜀刊本』『四部叢刊本』『唐詩品彙』『古今詩刪』では「閑」に作る。同義。
不妨飮酒復垂釣
さまたげず さけつりるるを
  • 不妨 … 思いのまま。
  • 飲酒 … 酒を飲む。『詩経』魯頌・泮水の詩に「魯侯いたる、泮に在りて飲酒す」(魯侯戾止、在泮飲酒)とある。戻は、至る。止は、助字。泮は、泮宮。ウィキソース「詩經/泮水」参照。
  • 垂釣 … 釣り糸を垂れる。釣りをすること。『列仙伝』巻下、陵陽子明の条に「陵陽釣を垂れ、白龍はりくわう」(陵陽垂釣、白龍銜鉤)とある。ウィキソース「列仙傳」参照。
君但能來相往還
きみきたらばあい往還おうかんせよ
  • 但 … ここでは、「~でありさえすれば」の意。
  • 能来 … 来られさえすれば。「白雲のうた」(『穆天子伝』巻三、『楽府詩集』巻八十七)に「ねがわくはの死すること無く、ねがわくは能く復たきたらんことを」(將子無死、尚能複來)とある。ウィキソース「穆天子傳/卷三」参照。
  • 相 … 『顧可久注本』では「且」に作る。
  • 往還 … 行き来すること。『列子』湯問篇に「而るに五山のこんは、れんちゃくする所無く、常にちょうに随って、しょうし往還して、しばらくもとどまるを得ず」(而五山之根、無所連著、常隨潮波、上下往還、不得蹔峙焉)とある。ウィキソース「列子/湯問篇」参照。
  • 往 … 『四部叢刊本』『顧起経注本』『唐詩品彙』『古今詩刪』では「徃」に作る。異体字。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻二(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻一百二十五(中華書局、1960年)
  • 『王右丞文集』巻二(静嘉堂文庫蔵、略称:静嘉堂本)
  • 『王摩詰文集』巻四(書韻楼叢刊、上海古籍出版社、2003年、略称:蜀刊本)
  • 『須渓先生校本唐王右丞集』巻二(『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:四部叢刊本)
  • 顧起経注『類箋唐王右丞詩集』巻三(台湾学生書局、1970年、略称:顧起経注本)
  • 顧可久注『唐王右丞詩集』巻二(『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:顧可久注本)
  • 趙殿成注『王右丞集箋注』巻六(中国古典文学叢書、上海古籍出版社、1998年、略称:趙注本)
  • 『唐詩品彙』巻三十([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩解』巻十六(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩別裁集』巻五(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『古今詩刪』巻十三(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収)
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