>   漢詩   >   唐詩選   >   巻三 五律   >   終南山(王維)

終南山(王維)

終南山
しゅうなんざん
おう
  • 五言律詩。隅・無・殊・夫(上平声虞韻)。
  • ウィキソース「終南山 (王維)」参照。
  • 詩題 … 『全唐詩』には「題下に一に行の字有り、一に終山行に作る」(題下一有行字、一作終山行)とある。『蜀刊本』では「終南山行」に作る。『文苑英華』では「終山行」に作る。
  • 終南山 … 長安の南方にある山。今の陝西省南部、秦嶺山脈の中部あたりを指す。別名南山、中南山、太乙山などともいう。ウィキペディア【終南山】参照。『括地志』雍州、万年県の条に「終南山は、一名中南山、一名太一山、一名南山、一名橘山、一名楚山、一名泰山、一名周南山、一名地脯山、雍州万年県の南五十里に在り」(終南山、一名中南山、一名太一山、一名南山、一名橘山、一名楚山、一名泰山、一名周南山、一名地脯山、在雍州萬年縣南五十里)とある。ウィキソース「括地志輯校」参照。
  • この詩の後半四句は『楽府詩集』巻七十九・近代曲辞一に「陸州歌第一」として収録。ウィキソース「樂府詩集/079卷」参照。
  • 王維 … 699?~761。盛唐の詩人、画家。太原(山西省)の人。あざなきつ。開元七年(719)、進士に及第。安禄山の乱で捕らえられたが事なきを得、乱後は粛宗に用いられてしょうじょゆうじょう(書記官長)まで進んだので、王右丞とも呼ばれる。また、仏教に帰依したため、詩仏と称される。『王右丞文集』十巻がある。ウィキペディア【王維】参照。
太乙近天都
太乙たいいつ てんちか
  • 太乙 … 終南山の別称。「太一」とも書く。一説に終南山の主峰ともいう。もと、星の名。後漢の張衡「西京の賦」(『文選』巻二)に「まえには則ち終南・太一、りゅうくつとしてさいしゅつ隠轔いんりんとして鬱律うつりつたり」(於前則終南太一、隆崛崔崪、隱轔鬱律)とあり、その李善の注に「此に終南・太一と云う、一山と為すを得ざること明らかなり。蓋し終南は南山の総名。太一は一山の別号のみ」(此云終南太一、不得爲一山明矣。蓋終南南山之總名。太一一山之別號耳)とある。ウィキソース「昭明文選/卷2」参照。
  • 乙 … 『静嘉堂本』『蜀刊本』『四部叢刊本』『顧起経注本』『顧可久注本』『文苑英華』では「一」に作る。
  • 天都 … 天帝の都。もと、星の名。天子の都長安の意にもかけている。『晋書』天文志に「七星は、一に天都と名づく、衣裳文繡をつかさどる、又た急兵盗賊をつかさどる」(七星、一名天都、主衣裳文繡、又主急兵盜賊)とある。ウィキソース「晉書/卷011」参照。また『淮南子』泰族訓に「又た況んや泰山に登り、石封せきほうみて、以て八荒はっこうを望み、天都のがいごとく、こうの帯の若く、万物の其のかんに在る者を視るをや」(又況登泰山、履石封、以望八荒、視天都若蓋、江河若帶、萬物在其間者乎)とある。石封は、石の高く重なり積もったもの。八荒は、八方の果て。全世界。ウィキソース「淮南子/泰族訓」参照。
連山到海隅
連山れんざん 海隅かいぐういた
  • 連山 … 連なっている山々。南朝梁の沈約の楽府詩「臨高台」(『楽府詩集』巻十八)に「連山断絶無く、河水復た悠悠たり」(連山無斷絶、河水復悠悠連山無斷絶)とある。ウィキソース「樂府詩集/018卷」参照。
  • 山 … 『顧起経注本』『全唐詩』には「一作天」とある。『文苑英華』では「天」に作り、「集作山」とある。
  • 海隅 … 東の海のほとり。東海の果て。『書経』益稷篇に「しかるかな、てい。光天の下、海隅の蒼生、万邦の黎献に至るまで、共に帝の臣り」(兪哉、帝。光天之下、至於海隅蒼生、萬邦黎獻、共惟帝臣)とある。ウィキソース「尚書/益稷」参照。また『呂氏春秋』有始覧、有始篇に「何をかきゅうそうと謂う。呉の具区ぐく、楚の雲夢うんぼう、秦の陽華、晋の大陸、梁のでん、宋の孟諸、斉の海隅、趙の鉅鹿きょろく、燕の大昭なり」(何謂九藪。呉之具區、楚之雲夢、秦之陽華、晉之大陸、梁之圃田、宋之孟諸、齊之海隅、趙之鉅鹿、燕之大昭)とある。九藪は、九つの湿原。ウィキソース「呂氏春秋/卷十三」参照。
  • 到 … 『全唐詩』では「接」に作り、「一作到」とある。
白雲廻望合
白雲はくうん めぐのぞめばがっ
  • 白雲 … 白い雲。「白雲のうた」(『穆天子伝』巻三、『楽府詩集』巻八十七)に「白雲天に在り、丘陵自ずから出づ」(白雲在天、丘陵自出)とある。ウィキソース「穆天子傳/卷三」参照。
  • 廻望 … 「ぼうを廻らせば」と読んでもよい。振り返って遠望すれば。西晋の張載「成都のはくろうに登る」詩に「高軒こうけん しゅひらき、廻り望めば 八隅をぶ」(高軒啓朱扉、廻望暢八隅)とある。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷039」参照。
  • 廻 … 『蜀刊本』では「回」に作る。
青靄入看無
青靄せいあい りてれば
  • 青靄 … 青いもや。南朝宋の鮑照「大雷岸に登りて妹に与うる書」(『六朝文絜』巻七)に「左右は青靄、表裏はしょうなり」(左右青靄、表裏紫霄)とある。紫霄は、大空。ウィキソース「登大雷岸與妹書」参照。
  • 靄 … 『静嘉堂本』『四部叢刊本』では「藹」に作る。同義。
分野中峯變
ぶん ちゅうほうへん
  • 分野 … 古代の天文家が中国全域を天の二十八宿に従って分けた区域。『国語』周語下篇に「さいの在る所は、則ち我が有周の分野なり。月の在る所は、辰馬農祥なり」(歲之所在、則我有周之分野也。月之所在、辰馬農祥也)とある。歳は、木星。ウィキソース「國語/卷03」参照。
  • 中峰 … 中央の峰。ここでは、太乙峰を指す。
陰晴衆壑殊
陰晴いんせい しゅうがくことなり
  • 陰晴 … くもりと晴れ。
  • 衆壑 … 多くの谷。
欲投人處宿
人処じんしょとうじて宿やどらんとほっ
  • 人処 … 人のいる所。
  • 處宿 … 『顧可久注本』では「宿處」に作る。和刻本では、この一句を「ひととうじて宿しゅくせんとほっするところ」(欲投人宿處)と訓読している。
隔水問樵夫
みずへだててしょう
  • 水 … 『顧起経注本』『全唐詩』には「一作浦」とある。『文苑英華』では「浦」に作り、「集作水」とある。
テキスト
  • 『箋註唐詩選』巻三(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
  • 『全唐詩』巻一百二十六(中華書局、1960年)
  • 『王右丞文集』巻四(静嘉堂文庫蔵、略称:静嘉堂本)
  • 『王摩詰文集』巻六(書韻楼叢刊、上海古籍出版社、2003年、略称:蜀刊本)
  • 『須渓先生校本唐王右丞集』巻四(『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:四部叢刊本)
  • 顧起経注『類箋唐王右丞詩集』巻四(台湾学生書局、1970年、略称:顧起経注本)
  • 顧可久注『唐王右丞詩集』巻四(『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:顧可久注本)
  • 趙殿成注『王右丞集箋注』巻七(中国古典文学叢書、上海古籍出版社、1998年、略称:趙注本)
  • 『唐詩三百首注疏』巻四(廣文書局、1980年)
  • 『唐詩品彙』巻六十一([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
  • 『唐詩解』巻三十六(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『唐詩別裁集』巻九(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『文苑英華』巻一百五十九(影印本、中華書局、1966年)
  • 『古今詩刪』巻十四(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収)
  • 松浦友久編『校注 唐詩解釈辞典』大修館書店、1987年
歴代詩選
古代 前漢
後漢
南北朝
初唐 盛唐
中唐 晩唐
北宋 南宋
唐詩選
巻一 五言古詩 巻二 七言古詩
巻三 五言律詩 巻四 五言排律
巻五 七言律詩 巻六 五言絶句
巻七 七言絶句
詩人別
あ行 か行 さ行
た行 は行 ま行
や行 ら行