聞白楽天左降江州司馬(元稹)
聞白樂天左降江州司馬
白楽天が江州司馬に左降せられしを聞く
白楽天が江州司馬に左降せられしを聞く
- 〔テキスト〕 『唐詩選』巻七、『全唐詩』巻四百十五、『元氏長慶集』巻二十(『四部叢刊 初編集部』所収)、『元氏長慶集』巻二十(『四部備要 集部』所収)、趙宦光校訂/黄習遠補訂『万首唐人絶句』巻二十一(万暦三十五年刊、内閣文庫蔵)、『古今詩刪』巻二十二(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収、64頁)、『唐詩品彙』巻五十二、『唐詩別裁集』巻二十、『元稹集』巻二十(中華書局、1982年)、他
- 七言絶句。幢・江・窻(上平声江韻)。
- ウィキソース「聞樂天授江州司馬」参照。
- 聞白樂天左降江州司馬 … 『全唐詩』『四部叢刊本』『四部備要本』『万首唐人絶句』『中華書局本』では「楽天の江州司馬を授けられしを聞く」(聞樂天授江州司馬)に作る。『唐詩別裁集』では「聞樂天左降江州司馬」に作る。
- 白楽天 … 作者の親友、白居易のこと。772~846。楽天は字。号は香山居士。貞元十六年(800)、進士に及第。翰林学士、左拾遺などを歴任後、江州(江西省九江)司馬に左遷された。のち中央に復帰し、最後は刑部尚書の肩書で退官した。詩風は平易を第一とした。詩文集『白氏文集』は平安時代に我が国へ伝えられ、日本文学に多大な影響を与えた。ウィキペディア【白居易】参照。書き下し文の「白楽天が」は「白楽天の」と読んでもよい。
- 江州 … 今の江西省九江市。『新唐書』地理志に「江州潯陽郡、上。本の九江郡、天宝元年に名を更む」(江州潯陽郡、上。本九江郡、天寶元年更名)とある。ウィキソース「新唐書/卷041」参照。ウィキペディア【江州 (江西省)】参照。
- 司馬 … 州・郡の属官。刺史を補佐して軍事をつかさどった。『事物紀原』撫字長民部第三十一、司馬の条に「魏晋より以後、刺史にして将軍開府を帯ぶる者は則ち之を置く。此れより始めて州郡の官と為す。唐の高宗、位に即いて治中を改めて司馬節度と為し、亦た行軍司馬有り。今節度団練副使と、並びに以て貶責の官と為す」(魏晉以後、刺史帶將軍開府者則置之。自此始爲州郡官。唐高宗即位改治中爲司馬節度、亦有行軍司馬。今與節度團練副使、竝以爲貶責之官)とある。ウィキソース「事物紀原 (四庫全書本)/卷06」参照。
- 左降 … 「左降せらるるを」と読んでもよい。左遷に同じ。
- この詩は、元和十年(815)、親友の白居易が江州(今の江西省九江市)の司馬(州の属官)に左遷されたのを聞き、驚きかつ悲しんで詠んだもの。このとき、作者は通州(今の四川省達州市)に左遷されて病中であった。なお、白居易は江州への舟旅の途中、この詩に接し、「舟中にて元九の詩を読む」(舟中読元九詩)という詩を返している。さらに江州到着後に書いた「微之に与うる書」(『白氏文集』巻四十五)にこの詩を取り上げ、「此の句、他人すら尚お聞く可からず。況んや僕の心をや。今に至るまで吟ずる毎に、猶お惻惻たるのみ」(此句他人尚不可聞。況僕心哉。至今每吟、猶惻惻耳)と言っている。ウィキソース「與元微之書」参照。
- 元稹 … 779~831。中唐の詩人。河南(河南省洛陽市)の人。字は微之。貞元九年(793)、十五歳で明経科に合格。元和元年(806)、進士に及第。左拾遺、監察御史などを歴任。元和五年(810)、江陵府(湖北省)の士曹参軍に左遷された。元和十年(815)、通州(四川省達州市)に左遷。長慶二年(822)、同中書門下平章事(宰相)となるが、わずか四ヶ月で失脚、同州(陝西省渭南市)刺史に出される。大和三年(829)、都に戻り、尚書左丞となった。また武昌軍節度使にもなった。大和五年(831)、武昌(湖北省武漢市武昌区)にて病死した。白居易の親友で元白と併称された。伝奇小説『鶯々伝』、詩文集『元氏長慶集』六十巻がある。ウィキペディア【元稹】参照。
殘燈無焰影幢幢
残灯 焔無く 影幢幢
- 残灯 … 消えかかった灯火。燃え尽きようとしている灯火。
- 燈 … 『万首唐人絶句』では「鐙」に作る。
- 無焔 … 焔もあげず。
- 影 … ほの暗い火影。
- 幢幢 … ゆらゆらと揺れるさま。このように同じ漢字を重ねた熟語を重言または畳語という。なお、幢幢を「暗くかすかなさま」と解釈する説もある。『四部叢刊本』『四部備要本』では「憧憧」(ショウショウ・ドウドウ)に作る。こちらは、心中がむなしくて、落ち着かないさま。
此夕聞君謫九江
此の夕べ 君が九江に謫せられしを聞く
- 此夕 … この物寂しい夜に。こんな心細い夜に。
- 君 … 白楽天を指す。
- 九江 … 江州の別名。今の江西省九江市。南方の廬山は景勝地として有名。ウィキペディア【九江市】参照。
- 謫 … 「謫せらるるを」と読んでもよい。罪によって遠方へ流されること。流謫。貶謫。
垂死病中驚坐起
垂死の病中 驚いて坐起すれば
- 垂死 … 死にかける。瀕死。垂は、垂んとする。今にも~しそうになる。
- 病中 … 病床の身でありながら。
- 驚坐起 … 驚きのあまり起き上がって、床の上に坐り直すと。『全唐詩』には「一作仍悵望」とある。『四部叢刊本』『四部備要本』では「仍悵望」に作る。こちらは「仍お悵望す」と読む。悵望は、思いきり悪く恨めしげに眺めること。
暗風吹雨入寒窓
暗風 雨を吹いて 寒窓に入る
- 暗風 … 暗やみを吹く夜風。
- 雨 … 『全唐詩』には「一作面」とある。
- 寒窓 … 寒々とした窓。
- 入 … 吹き込んできた。
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