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自鞏洛舟行入黄河即事寄府県寮友(韋応物)

自鞏洛舟行入黃河即事寄府縣寮友
きょうらくしゅうこうしてこうそく けんりょうゆう
おうぶつ
  • 七言律詩。東・通・中・風・同(平声東韻)。
  • ウィキソース「自鞏洛舟行入黃河即事寄府縣僚友」参照。
  • 鞏洛 … 今の河南省きょう市付近と河南省洛陽市の東方地域。ウィキペディア【鞏義市】【洛陽市】参照。
  • 舟行入黄河 … 鞏洛の間を流れる洛水を舟で下って黄河に入る。洛水は、今の洛河。ウィキペディア【洛河】参照。
  • 即事 … 目の前の情景や事柄に即して、見たままに詠じたもの。
  • 府県 … 作者は洛陽のじょう(副知事)だったので、ここでは河南府洛陽県を指す。
  • 寮友 … 同じ役所の同僚。
  • 寮 … 底本以外の諸本では「僚」に作る。
  • 寄 … 詩を人に託して送り届けること。「贈」は、詩を直接手渡すこと。
  • この詩は、代宗の永泰元年(765)、作者が洛陽のじょう(副知事)をしていた二十九歳の時の作。
  • 韋応物 … 736~791?。中唐の詩人。長安(陝西せんせい省西安市)の人。じょしゅう(安徽省)刺史や江州(江西省)刺史等を歴任したが、最後の官が蘇州刺史だったので、韋蘇州と呼ばれた。自然を対象とした詩が多く、自然詩人といわれた。『韋江州集』十巻、『韋蘇州集』十巻がある。ウィキペディア【韋応物】参照。
夾水蒼山路向東
みずさしはさ蒼山そうざん みちひがしかい
  • 夾水 … 洛水をはさんで。『史記』呉太伯世家に「楚も亦た兵を発して呉をふせぎ、水をはさみてじんす」(楚亦發兵拒呉、夾水陳)とある。ウィキソース「史記/卷031」参照。
  • 夾 … 『唐詩品彙』では「緑」に作る。
  • 蒼山 … 木の茂った青黒い山々。顔延之「謝監霊運に和す」詩に「くつていしゅうちょうし、ていに蒼山のみちえっす」(弔屈汀洲浦、謁帝蒼山蹊)とある。屈は、屈原。帝は、帝舜。ウィキソース「昭明文選/卷26」参照。
  • 路向東 … その間を水路が東へと向かう。
東南山豁大河通
東南とうなん やまひらけてたいつう
  • 東南 … 東南の方向に。
  • 山豁 … 山並みが切れて視界が開けること。
  • 大河通 … 洛水は広大な黄河へと流れ込む。大河は、黄河を指す。『史記』呉起伝に「いんちゅうの国は、孟門もうもんを左にし、太行たいこうを右にし、じょうざん其の北に在り、大河其の南を」(殷紂之國、左孟門、右太行、常山在其北、大河經其南)とある。ウィキソース「史記/卷065」参照。
寒樹依微遠天外
寒樹かんじゅ依微いびたり 遠天えんてんほか
  • 寒樹 … 葉の落ちた冬の木立。江淹「劉太尉(乱をいたむ)こん」詩(『文選』巻三十一、雑体詩三十首)に「千里何ぞ蕭条しょうじょうたる、白日は寒樹に隠る」(千里何蕭條、白日隱寒樹)とある。ウィキソース「劉太尉傷亂」参照。
  • 依微 … ぼんやりとして、かすかなさま。畳韻語。梁の簡文帝「蜂」詩に「風を逐いて泛漾はんように従い、日に照らされてたちまち依微たり」(逐風從泛漾、照日乍依微)とある。ウィキソース「漢魏六朝百三家集 (四庫全書本)/卷083」参照。
  • 遠天外 … 遥かな空の彼方。
夕陽明滅亂流中
夕陽せきよう明滅めいめつす らんりゅううち
  • 夕陽 … 夕日の光。
  • 明滅 … キラキラと明るくなったり、暗くなったりする。双声語。
  • 乱流 … 小波さざなみがいっぱいに立っている流れ。
孤村幾歳臨伊岸
そん 幾歳いくとせがんのぞ
  • 孤村 … ぽつんとある寂しい村。
  • 幾歳 … 何年あそこにあるのだろう。「幾歳」は、底本では「幾處」に作るが、諸本に従い改めた。『韋蘇州集』(『唐五十家詩集』所収)では「歳幾」に作る。『和刻本韋蘇州集』では「已歳」に作り、「一作幾」とある。
  • 伊岸 … 伊水の川岸。伊水は、河南省洛陽の南を流れ、洛水に合流する川。今の伊河。ウィキペディア【伊河】(中文)参照。
一鴈初晴下朔風
一雁いちがん はじめてれて朔風さくふうくだ
  • 一雁 … 一羽のかり
  • 初晴 … 腫れ上がったばかりの空。
  • 下朔風 … 北風に吹かれながらりてゆく。朔風は、北風。
爲報洛橋遊宦侶
ためほうぜよ らくきょう遊宦ゆうかんとも
  • 為報 … (あのかりよ、)伝えておくれ。
  • 洛橋 … 洛陽の西南、洛水にかかる橋の名。天津橋のこと。ここでは洛陽を指す。
  • 遊宦侶 … 故郷を離れて仕官している官僚の仲間。
扁舟不繫與心同
へんしゅうつながず こころおなじと
  • 扁舟 … 一艘いっそうの小舟。
  • 不繫 … 岸に繫がない。何物にも束縛されない自由な心の動きに喩える。賈誼の「ふくちょうの賦」(『文選』巻十三)に「たんとして深淵の静かなるがごとく、はんとして繫がざるの舟のごとし」(澹乎若深淵之靜、泛乎若不繫之舟)とあるのに基づく。ウィキソース「鵩鳥賦」参照。
  • 与心同 … (何物にも拘束されない)私の心と同じだ。
テキスト
  • 『全唐詩』巻一百八十七(揚州詩局本縮印、上海古籍出版社、1985年)
  • 『韋江州集』巻二(『四部叢刊 初編集部』所収)
  • 『韋蘇州集』巻九(『唐五十家詩集』所収)
  • 『韋蘇州集』巻二(『四部備要 集部』所収)
  • 『(須溪先生校本)韋蘇州集』巻二(宝永三年刊本、『和刻本漢詩集成 唐詩8』所収、汲古書院、1975年)
  • 『唐詩品彙』巻八十六(汪宗尼本影印、上海古籍出版社、1981年)
  • 『唐詩別裁集』巻十四(乾隆二十八年教忠堂重訂本縮印、中華書局、1975年)
  • 『唐詩解』巻四十四(清順治十六年刊、内閣文庫蔵)
  • 『古今詩刪』巻十七(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇9』所収)
  • 李慶甲集評校点『瀛奎律髄彙評』巻三十四(上海古籍出版社、1986年)
  • 孫望編著『韋應物詩集繋年校箋』巻一(中國古典文學基本叢書、中華書局、2002年)
  • 陶敏/王友勝校注『韋應物集校注』巻二(中國古典文學叢書、上海古籍出版社、1998年)
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