送韋評事(王維)
送韋評事
韋評事を送る
韋評事を送る
- 七言絶句。賢・延・邊(下平声先韻)。
- ウィキソース「送韋評事」参照。
- 韋評事 … 評事は官名。大理寺(刑罰・司法を管轄する官署)の属官。ウィキペディア【大理評事】(中文)参照。『新唐書』百官志三、大理寺の条に「評事八人あり、従八品の下なり」(評事八人、從八品下)とある。ウィキソース「新唐書/卷048」参照。韋評事という人物については不明。
- 送 … 見送る 。
- 王維 … 699?~761。盛唐の詩人、画家。太原(山西省)の人。字は摩詰。開元七年(719)、進士に及第。安禄山の乱で捕らえられたが事なきを得、乱後は粛宗に用いられて尚書右丞(書記官長)まで進んだので、王右丞とも呼ばれる。また、仏教に帰依したため、詩仏と称される。『王右丞文集』十巻がある。ウィキペディア【王維】参照。
欲逐將軍取右賢
将軍を逐うて右賢を取らんと欲し
- 逐 … あとを追う。
- 右賢 … 右賢王。匈奴の貴族の称号。左賢王と右賢王とがあり、ともに単于となる資格を持っていた。『史記』衛青伝に「元朔の五年の春、漢、車騎将軍青をして三万騎を将いて高闕より出でしむ。……匈奴の右賢王、衛青等の兵に当たる。以為えらく、漢の兵此に至ること能わず、と。飲みて酔う。漢の兵夜至りて、右賢王を囲む。右賢王驚きて、夜逃げ、独り其の愛妾一人、壮騎数百と与に、馳せて囲みを潰やし北に去る。漢の軽騎校尉郭成等逐うこと数百里なるも、及ばず。右賢の裨王十余人、衆男女万五千余人、畜数千百万を得たり」(元朔之五年春、漢令車騎將軍靑將三萬騎出高闕。……匈奴右賢王、當衞靑等兵。以爲、漢兵不能至此。飮醉。漢兵夜至、圍右賢王。右賢王驚、夜逃、獨與其愛妾一人壯騎數百、馳潰圍北去。漢輕騎校尉郭成等逐數百里、不及。得右賢裨王十餘人、衆男女萬五千餘人、畜數千百萬)とある。ウィキソース「史記/卷111」参照。
沙場走馬向居延
沙場 馬を走らせて居延に向う
- 沙場 … (戦場としての)砂漠。後漢の蔡琰「胡笳十八拍」(『楽府詩集』巻五十九、『楚辞後語』巻三)の第十七拍に「塞上の黄蒿は枝枯れ葉乾きたり、沙場の白骨に刀痕箭瘢あり」(塞上黃蒿兮枝枯葉乾、沙場白骨兮刀痕箭瘢)とある。箭瘢は、矢きずのあと。ウィキソース「胡笳十八拍」「樂府詩集/059卷」「楚辭集注 (四庫全書本)/後語卷3」参照。また南朝梁の王巾「頭陀寺碑文」(『文選』巻五十九)に「炎区は九訳し、沙場に一候あり」(炎區九譯、沙場一候)とある。炎区は、南方の国。九訳は、九たび言葉を翻訳して来朝すること。一候は、国境地帯にわずかな監視官だけで、広大な版図を平穏に保つこと。ウィキソース「頭陀寺碑文」参照。また南朝梁の簡文帝「寒鳬を詠ず」詩に「水を廻らして軽浪を浮かべ、沙場に羽衣を弄す」(廻水浮輕浪、沙塲弄羽衣)とある。寒鳬は、冬の野鴨。軽浪は、さざなみ。ウィキソース「古詩紀 (四庫全書本)/卷079」参照。
- 場 … 『顧起経注本』『古今詩刪』では「塲」に作る。異体字。
- 居延 … 地名。漢代、今の内モンゴル自治区アルシャー盟エジン旗に置かれた県。『史記』李陵伝(李将軍列伝)に「嘗て深く匈奴に入ること二千余里、居延を過ぎて地形を視、虜を見る所無くして還る」(嘗深入匈奴二千餘里、過居延視地形、無所見虜而還)とある。ウィキソース「史記/卷109」参照。また、城の名。漢の武帝のとき、匈奴に対する最前線として、甘粛省の酒泉(今の甘粛省酒泉市)から張掖(今の甘粛省張掖市)にかけて築かれた。『史記』霍去病伝に「驃騎将軍、居延を踰え、祁連山に至り、首虜を捕らうること甚だ多し」(驃騎將軍踰居延、至祁連山、捕首虜甚多)とある。ウィキソース「史記/卷111」参照。
遙知漢使蕭關外
遥かに知る 漢使 蕭関の外
- 遥知 … 遠く離れたこの私に想像できることは。
- 漢使 … 漢から派遣された官吏。韋評事を指す。沈約「雑曲三首其二 有所思」(『玉台新詠』巻五)に「涙を流して漢使に対し、書に因りて狭斜に寄す」(流淚對漢使、因書寄狹斜)とある。狭斜は、色町。ウィキソース「有所思 (沈約)」参照。
- 蕭関 … 今の寧夏回族自治区固原市にあった関所。函谷関・武関・大散関とともに「関中四関」の一つ。ウィキペディア【蕭關】(中文)参照。『漢書』匈奴伝に「孝文の十四年、匈奴の単于十四万騎朝那・蕭関に入り、北地の都尉卬を殺し、人民・畜産を虜にすること甚だ多く、遂に彭陽に至る」(孝文十四年、匈奴單于十四萬騎入朝那蕭關、殺北地都尉卬、虜人民畜產甚多、遂至彭陽)とある。ウィキソース「漢書/卷094上」参照。
愁見孤城落日邊
愁えて見ん 孤城 落日の辺
- 愁見 … 憂愁のまなざしで眺める。
- 孤城 … 一つだけ他から孤立している城。居延城を指す(諸説あり)。
- 落日辺 … 夕日の沈む辺り。南朝梁の呉均「入関」詩に「馬頭 落日を要え、剣尾 流星を掣く」(馬頭要落日、劍尾掣流星)とある。ウィキソース「樂府詩集/021卷」参照。
テキスト
- 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
- 『全唐詩』巻一百二十八(中華書局、1960年)
- 『王右丞文集』巻五(静嘉堂文庫蔵、略称:静嘉堂本)
- 『王摩詰文集』巻九(書韻楼叢刊、上海古籍出版社、2003年、略称:蜀刊本)
- 『須渓先生校本唐王右丞集』巻五(『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:四部叢刊本)
- 顧起経注『類箋唐王右丞詩集』巻十(台湾学生書局、1970年、略称:顧起経注本)
- 顧可久注『唐王右丞詩集』巻五(『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:顧可久注本)
- 趙殿成注『王右丞集箋注』巻十四(中国古典文学叢書、上海古籍出版社、1998年、略称:趙注本)
- 『唐詩品彙』巻四十八([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
- 『唐詩解』巻二十六(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
- 『万首唐人絶句』七言・巻四(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)
- 『古今詩刪』巻二十一(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇8』所収)
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