送沈子福之江南(王維)
送沈子福之江南
沈子福の江南に之くを送る
沈子福の江南に之くを送る
- 七言絶句。稀・圻・歸(上平声微韻)。
- ウィキソース「送沈子歸江東」参照。
- 詩題 … 『全唐詩』では「沈子の江東に帰るを送る」(送沈子歸江東)に作り、「一に沈子福の之くを送るに作る」(一作送沈子福之)とある。『静嘉堂本』『四部叢刊本』では「送沈子福江東」に作る。『蜀刊本』『顧起経注本』『顧可久注本』では「送沈子歸江東」に作る。『趙注本』では「送沈子福歸江東」に作る。『唐詩品彙』『唐詩解』では「送沈子福之江東」に作る。『万首唐人絶句』では「送沈子福」に作る。
- 沈子福 … 沈は姓。子福は字。『全唐詩』等では「沈子」に作る。こちらの「子」は、親しい友人を呼ぶときの語。人物については不明。
- 江南 … 長江中流・下流の南岸地域。今の江蘇省南部・浙江省西北部・安徽省南部・江西省南部などを指す。臧勵龢等編『中國古今地名大辭典』(商務印書館、1931年)に「長江以南の総称なり。今は江蘇・安徽・江西の三省を通称して江南と為す」(長江以南之總稱。今通稱江蘇安徽江西三省爲江南)とある。
- 之 … 行く。
- 送 … 見送る。
- 王維 … 699?~761。盛唐の詩人、画家。太原(山西省)の人。字は摩詰。開元七年(719)、進士に及第。安禄山の乱で捕らえられたが事なきを得、乱後は粛宗に用いられて尚書右丞(書記官長)まで進んだので、王右丞とも呼ばれる。また、仏教に帰依したため、詩仏と称される。『王右丞文集』十巻がある。ウィキペディア【王維】参照。
楊柳渡頭行客稀
楊柳の渡頭 行客稀なり
- 楊柳 … 柳の総称。楊は、カワヤナギ。柳は、シダレヤナギ。南朝梁の簡文帝の楽府詩「折楊柳」(『玉台新詠』巻七、『楽府詩集』巻二十二)に「楊柳乱れて糸を成し、攀折す上春の時」(楊柳亂成絲、攀折上春時)とある。攀折は、枝を引き寄せて折ること。上春は、陰暦の正月。孟春に同じ。ウィキソース「折楊柳 (蕭綱)」参照。
- 柳 … 『静嘉堂本』では「栁」に作る。『顧起経注本』では「桺」に作る。いずれも異体字。
- 渡頭 … 渡し場。南朝梁の簡文帝「烏棲の曲四首其一」(『玉台新詠』巻九)に「採蓮渡頭黄河に擬す、郎今渡らんと欲するも風波を畏る」(採蓮渡頭擬黄河、郎今欲渡畏風波)とある。ウィキソース「烏棲曲 (蕭綱)」参照。
- 行客 … 旅人。「折楊柳歌辞五曲其一」(梁鼓角横吹曲、『楽府詩集』巻二十五)に「蹀座のもの長笛を吹き、愁殺す 行客の児」(蹀座吹長笛、愁殺行客兒)とある。蹀座は、行く者と坐している者。ウィキソース「樂府詩集/025卷」参照。
罟師盪槳向臨圻
罟師 槳を盪かして臨圻に向う
- 罟師 … 網を使う漁師。罟は、魚を取る網。
- 盪槳 … 櫂を動かす。舟を漕ぐこと。盪は、動かす。槳は、櫂。「莫愁楽二曲其一」(『楽府詩集』巻四十八)に「莫愁は何れの処にか在る、莫愁は石城の西にあり。艇子は両槳を打ち、催して莫愁を送り来たる」(莫愁在何處、莫愁石城西。艇子打兩槳、催送莫愁來)とある。莫愁は、娘の名。艇子は、船頭。ウィキソース「樂府詩集/048卷」参照。
- 臨圻 … 対岸の曲がった岸辺。南朝宋の謝霊運「富春の渚」詩(『文選』巻二十六)に「流れに遡りて驚急に触れ、圻に臨みて参錯に阻まる」(溯流觸驚急、臨圻阻參錯)とある。驚急は、ここではひどく急な波。参錯は、入り組んだ崖。ウィキソース「昭明文選/卷26」参照。
唯有相思似春色
唯だ相思の春色に似たる有り
- 唯有 … ただ~だけが。
- 唯 … 『顧起経注本』『趙注本』『古今詩刪』では「惟」に作る。同義。
- 相思 … 相手を思う心。ここでは作者が沈を心にかけること。男女が互いに恋し合うという一般的な「相思」の意味ではない。蘇伯玉の妻「盤中の詩」(『玉台新詠』巻九)に「中帯を結び、長く相思う」(結中帶、長相思)とある。盤は、大皿。ウィキソース「盤中詩」参照。
- 春色 … 春の景色。春の趣き。南朝斉の謝朓「徐都曹に和す」詩(『文選』巻三十)に「宛洛は遨游に佳く、春色は皇州に満つ」(宛洛佳遨游、春色滿皇州)とある。宛洛は、宛邑(南陽)と洛陽との二都。遨游は、気ままに遊び楽しむこと。皇州は、帝都の地。ウィキソース「昭明文選/卷30」参照。
江南江北送君歸
江南江北 君が帰るを送る
- 江南江北 … 江南であろうと江北であろうと。南朝宋の謝霊運「江中の孤嶼に登る」詩(『文選』巻二十六)に「江南は歴覧に倦めり、江北は周旋を曠かにせん」(江南倦歴覧、江北曠周旋)とある。ウィキソース「登江中孤嶼」参照。
- 江北 … 『蜀刊本』では「北去」に作る。
- 君 … 『全唐詩』には「一作春」とある。『顧起経注本』では「春」に作る。
テキスト
- 『箋註唐詩選』巻七(『漢文大系 第二巻』、冨山房、1910年)※底本
- 『全唐詩』巻一百二十八(中華書局、1960年)
- 『王右丞文集』巻五(静嘉堂文庫蔵、略称:静嘉堂本)
- 『王摩詰文集』巻九(書韻楼叢刊、上海古籍出版社、2003年、略称:蜀刊本)
- 『須渓先生校本唐王右丞集』巻五(『四部叢刊 初篇集部』所収、略称:四部叢刊本)
- 顧起経注『類箋唐王右丞詩集』巻十(台湾学生書局、1970年、略称:顧起経注本)
- 顧可久注『唐王右丞詩集』巻五(『和刻本漢詩集成 唐詩1』所収、略称:顧可久注本)
- 趙殿成注『王右丞集箋注』巻十四(中国古典文学叢書、上海古籍出版社、1998年、略称:趙注本)
- 『唐詩品彙』巻四十八([明]高棅編、[明]汪宗尼校訂、上海古籍出版社、1982年)
- 『唐詩解』巻二十六(順治十六年刊、内閣文庫蔵)
- 『万首唐人絶句』七言・巻四(明嘉靖刊本影印、文学古籍刊行社、1955年)
- 『古今詩刪』巻二十一(寛保三年刊、『和刻本漢詩集成 総集篇8』所収)
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